いわゆる権利義務取締役って何?
ひとり会社設立や小さい会社の企業法務・相続専門 司法書士・行政書士の桐ケ谷淳一(@kirigayajun)です。
目次
はじめに
取締役の任期が切れてしまっている場合、未だに後任者なり役員変更登記をしていない場合はどうなるのでしょうか?
後任者を選任もしくは登記していない限り、取締役の責任を全うする必要があります。
つまり、役員としての地位はずっと有していることになります。
司法書士試験でも実務でも意外とあるのが、「権利義務取締役(権利義務続行)」
今回は取締役が欠けた場合の扱いについて触れていきます。
いわゆる権利義務取締役って何?
権利義務取締役の法的根拠
取締役が欠けた場合または法律もしくは定款で定めた員数を満たさなくなった場合は、任期満了もしくは辞任により退任した取締役は後任者が選ばれるまでは、取締役の地位を有した状態(権利義務)になります。
これを「権利義務取締役」などといっています。
会社法第346条1項で権利義務取締役等について定めてあります。
第346条第1項
役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
つまりは、取締役の任期は満了したり辞任して、本来は取締役の責任は終わっている状態です。
しかし、辞めたり、任期が切れたあとでもあなたの後任者が選ばれない限り、会社になにか問題が起きたときには責任を負うことになってしまいます。
つまり不安定な状態がずっと続くことになるので、後任者を素早く選んだりする必要が生じてきます。
どのような場合に権利義務状態が生じるのか?
私が経験した中で多いパターンは2つあります。
どちらも中小零細企業の場合です。
1つ目は、会社設立して10年以上経過しているのに、定時株主総会を開いていないため、任期が満了しているにも関わらず、後任者が選ばれていない場合。
これは経営者が任期のことをあまり意識していなかったことに起因します。
もう一つは、家族経営の取締役会設置会社で、取締役が3名以上必要なところ、1人が辞任しているにも関わらず、後任者を選んでいない場合。
こちらは、取締役が3名以上必要だということを失念している場合です。
いずれにしても選任懈怠を起因としている場合がほとんどです。
登記申請時にも注意が…
中小零細企業で株主総会を開かないまま任期が満了していた場合、速やかに取締役の後任者を選ぶ株主総会を開催した場合、どのような登記をするべきか?
登記実務では、本来の定時株主総会が開催される日の末日をもって「退任」、臨時株主総会で選び・就任した日を「就任」として登記します。
具体例
12月決算の会社で、任期満了していたことに気づいて、6月2日に臨時株主総会を開いて後任取締役を選任した場合
なお、定款には、事業年度終了後3ヶ月以内に定時株主総会を開催する旨、任期は選任後○年以内の最終の定時株主総会終結の時までとする旨の条項があります。
上記具体例の場合、定時株主総会は事業年度末日の3ヶ月以内に行わる旨の定款規定があるとなると、3月31日で任期が切れるので、登記上は「令和○年3月31日退任」となり、就任日は「令和○年6月2日就任」となります。
3月31日から6月2日の期間、取締役がいないと登記簿からは見えてしまいますが、前任者が取締役の地位を有している状態、いわゆる権利義務状態となっています。
ただ、この権利義務状態、許認可申請のときの要件で引っかかることがあるようです。
実際には会社経営として携わっているが、登記簿からは取締役としてはいないと思われるようです。
なので、権利義務状態がないように、特に許認可が絡む経営をしている会社は要注意です。
また、選任懈怠状態は、過料の対象となり、罰金みたいなものを支払う必要があるので、早めに処理することも重要です。
まとめ
取締役の任期は定款を見れば分かります。
会社設立して、10年後のことは忘れてしまいがち。
毎年株主総会を開催してリスク回避することもこれからの時代は重要です。
今回は
『いわゆる権利義務取締役って何?』
に関する内容でした。
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参考書籍
会社法 第2版 | ||||
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