このご時世で電子署名・電子認証システムを利用する会社は増えるのか?
ひとり会社設立や小さい会社の企業法務・相続専門 司法書士・行政書士の桐ケ谷淳一(@kirigayajun)です。
目次
はじめに
このご時世で、印鑑押印するために会社に出社して効率が悪いということを耳にします。
そのために「電子署名」が注目を集めています。
個人的に気になっているのは、登記申請の際に添付する書面の電子署名。
このことを私見を交えて書いていきます。
このご時世で電子署名・電子認証システムを利用する会社は増えるのか?
取締役の議事録承認 クラウドで電子署名を法務省が認める
法務省が取締役会の議事録作成に必要な取締役と監査役の承認についてクラウドを使った電子署名を認める。これまで会社法が容認しているかを明示する規定はなかった。新型コロナウイルスの感染防止策の一環で、署名や押印に関わる手続きを簡素にしたい経済界の要望を反映し、明確な方針を定めた。
(日経「取締役会の議事録承認 クラウドで電子署名 法務省、手続き簡素に」より)
取締役会では、議事録に出席取締役が記名押印することが義務付けられています。
上記方法が認められるとなると、採用する会社はかなり増えるでしょうし、実務もそのような対応をしていかないといけないと思います。
クラウド上の契約には法的リスクも…
クラウド上の契約については、法的リスクがあるという記事があります。
論点として、日経新聞の記事を紹介します。
契約の当事者が電子署名の印鑑証明に相当する電子証明書などを取得しなくてもすむため手続きは簡単だが、第三者が電子署名した契約書が法的に有効なのかは実は曖昧だ。
電子契約に詳しい」弁護士も「立会人型の場合は『本人』の電子署名ではないので、電子署名法の規定では文書は本物として成立したと認められない可能性が高い」と話す。法務省などもこうした電子契約書について「電子署名法3条に基づく推定効(文書が有効だと推定されること)は働き得ないと認識している」との見解を12日の政府の規制改革推進会議の会合で示した。
(日経「クラウド上の契約に法的リスク 20年前施行の法が壁に」より)
契約自体は書面にしなくても有効ですが、書面に残すことによって証拠能力が高まり、署名捺印することでさらに高まるとなっています。
しかし、上記記事の場合だと、契約そのものは有効だけれども、契約の内容に意思が反映されているかまでは分からないとということです。
ただし、上記はあくまでも相手方が絡む契約の電子署名なのに対し、取締役会議事録はクラウドで電子署名が可能という判断がされたということは、実務にとっても大きな影響と言えるでしょう。
登記申請でどうなるかが疑問…
登記申請で、議事録が絡むものが多くあります。
株主総会の場合、議事録に書類作成者が記名押印することが多いですが、商業登記電子認証ソフトを用いた証明方法を用いれば問題ないと思われます。
一方、取締役会議事録が添付書面となる役員変更登記などで問題が起こりそうです。
取締役会議事録に出席取締役・監査役が全員実印押印しなければならない場面があり、これを電子署名を用いる方法で行う場合、どのように担保されるのかが疑問です。
その答えになりそうなものを下記ブログで見つけました。
取締役会議事録等の電子署名について – 司法書士内藤卓のLEAGALBLOG
第11回成長戦略ワーキンググループ議事の資料1-3の中に、登記申請時に添付すべき取締役会議事録等の電子署名等についての論点と回答がありました。
【論点】
(1)
登記申請時添付すべき契約書面や取締役会議議事録等について、電子署名による押印では認められず、取り扱いを拒否される事例に悩まされる企業が多いとの声がある。
① 会社法第 369 条第4項において、取締役会の議事録が電磁的記録で作成されている場合は、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとることとされ、また、当該措置については会社法施行規則第225 条において、「電子署名及び認証業務に関する法律」第2条第1項と同様の文言で「電子署名」が定められている。これは、電子の取締役会の議事録については、サーバ上で自らの署名鍵で電子署名を行う所謂「リモート署名」及び、電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスの両方について、署名又は記名押印に代わ
る措置と解されるということか。
② 登記申請時に添付すべき契約書面や取締役会議事録について、①に記載した2つの方法による電子署名を認めるべきではないか。【回 答】
(1)
① 取締役会の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合には、法律上、出席した取締役及び監査役の署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならないこととされているが(会社法(平成17年法律第86号)第369条第4項)、省令において、その措置は電子署名の方法によるものとされている(会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)第225条第1項第6号)。当該電子署名の要件としては,電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)第2条に規定する電子署名の要件と同じ要件が定められており(会社法施行規則第225条第2項)、その範囲は電子署名法における電子署名の範囲と同様に解される。
電子署名法の解釈として、御指摘のいわゆる「リモート署名」又は「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」であっても、電子署名法第2条第1項各号の要件を満たすものについては、同条に規定する「電子署名」に該当するものであると解される。ただし、この場合であっても、「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」は、電子契約事業者が自ら電子署名を行うサービスであって、当該サービスによる電子署名は,電子契約事業者の電子署名であると整理される。このように整理される場合には,出席した取締役又は監査役が「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」を利用して電磁的記録をもって作成された取締役会の議事録に電子署名をしても、当該電子署名は取締役等の電子署名ではないこととなり、会社法第369条第4項の署名又は記名押印に代わる措置としては認められないこととなると考えられる。
② 登記の申請の際に添付すべき定款、議事録若しくは最終の貸借対照表又は他の書面が電磁的記録で作られているときは、登記の真実性を確保する観点から、当該電磁的記録には,作成者の「電子署名」につき一定の方法によることを求める(注1)とともに、作成者が電子署名の措置を講じたものであることを確認するための情報として一定の要件を満たす「電子証明書」を求める(注2)こととしている。
御指摘のいわゆる「リモート署名」について,当該署名に係る電子認証の仕組みが構築されているなど、上記の要件を満たしている場合には、登記の申請に添付すべき書面に係る情報に講ずる電子署名として認められることとなる。一方、「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」については、①のとおり電子契約事業者が自ら電子署名を行うサービスであることから、作成者の電子署名がないものとして、登記の申請に添付すべき書面に係る情報に講ずる電子署名の要件を満たさないものと考えられる。
(注1)電子署名の方法としては、電磁的記録に記録することができる情報に、産業標準化法(昭和24年法律第185条)に基づく日本産業規格X5731-8の付属書Dに適合する方法であって同付属書に定めるnの長さの値が2048ビットであるものを講ずることとされている(商業登記規則(昭和39年法務省令第23号)第33条の4)。
(注2)電子署名に使用することができる電子証明書は、委任による代理権限を証する情報にあっては、①電子認証登記所の電子証明書又は②氏名、住所、出生の年月日等により本人性を確認することができるものとして法務大臣の指定する電子証明書であり、その他の添付書面に係る情報にあっては、上記①及び②の電子証明書のほか、③指定公証人の電子証明書又は④その他法務大臣の指定する電子証明書とされている(商業登記規則第36条第4項)。
そのあたりがクリアできないと、商業登記完全オンライン申請は難しいと思料いたします。
私の方でも勉強していきますが、実際どうなるかは分からない状況です。
個人認証の場合はどうなのか?
法人の場合は、商業登記電子認証ソフトを用いた証明方法で行います。
では個人の場合はどうなのか?
個人は、個人の実印に変わるものとして、公的個人認証による電子署名である必要があります。
登記申請時に個人実印を押印することがありますが、その準備をしないといけないとなると、ハードルが高いですね。
登記の真実性をどう担保していくのか、今後は議論になると思われます。
まとめ
商業登記も完全オンライン申請とするためにも議事録等の電子署名をどう扱うかが鍵となりそうです。
商業登記電子証明も期限があり、費用がその分かかるので、コストの問題もあり、なかなか導入できない会社もあるようです。
ただ、このご時世で電子署名に舵を切る会社は増えそうな予感で、今後商業登記も含めて議論されることになりそうです。
今回は
『このご時世で電子署名・電子認証システムを利用する会社は増えるのか?』
に関する内容でした。
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法人の電子証明書の取得方法についてはこちらのブログを御覧ください。
フリーランスの方の法人設立 法人の電子証明書を取得するにはどうすればいいのか? | 司法書士行政書士きりがやブログ(きりログ)
参考書籍
マイナンバーで広がる電子署名・認証サービス | ||||
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