東京都江戸川区葛西駅前
会社設立などの企業法務・相続専門
司法書士・行政書士の桐ケ谷淳一です。
目次
はじめに
相続分の譲渡。
私も実務で扱ったことはありません。
最高裁判所で相続分の譲渡につき、贈与に当たるか否かで重要な判断が下りました。
実務に与える影響があるかと思い紹介します。
相続実務 相続分の譲渡が贈与に当たるかどうか 遺留分の問題にも?
事案の概要
本当の事案はこんなものではありませんが、ざっくり書くとこんな事案です。
- 父親Aが亡くなった。Aの相続人は母親のBと子供のC、Dであった
- 父親の財産は預貯金4,000万円のみである。
- 母親Bは子CにAの相続分として2000万円を無償譲渡した
- 母親Bが亡くなった。相続人はCとD
- 母親の相続財産はなし
- 結局Cは父親の相続開始時の1,000万円と母親の無償譲渡分2,000万円の合計3,000万円を、DはAの相続開始時の相続分1000万円を取得
この問題の論点は?
母親Bが子Cに2,000万円相続分の譲渡をしていなければ、C・Dはともに2,000万円ずつ取得できていた。
DはBからCに対して行った相続分の譲渡は贈与に当たると主張。
贈与に当たるとなれば、遺留分の対象となり、Cは母親Bの遺留分4分の1を請求することができる。
一方Cの主張は、相続分の譲渡は暫定的な持分の移転に過ぎず、財産は遺産分割後に直接Aから譲渡しているのだから贈与に当たらない。
結局相続分の譲渡が「贈与」に当たるかどうかが最大の論点になりました。
最高裁判所の判断は
最高裁判所は、平成30年10月19日に、以下のように判断し、無償譲渡した相続分の譲渡が「贈与」に当たると判示しました。
判例は全文はこちら
共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。
(判決文より抜粋)
民法903条の規定は下記のとおりです。
(特別受益者の相続分)
第903条
1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
相続分の譲渡が「経済的利益」に当たるかどうかで判断が分かれています。
原審は相続分の譲渡が「経済的利益」に当たらないとして、贈与に当たらないと判示していましたが、最高裁判所はそれを覆しました。
結局相続分の譲渡は経済的利益をもたらすことになり、贈与に当たるから遺留分の対象となると判示したのです。
実務に与える影響は?
相続分の譲渡が贈与に当たると判断された以上、贈与税の絡みで問題がでてきます。
相続税にも影響がでてきそうで、今後、相続人間で争いがあった時、相続分の譲渡が使えるかどうか慎重に判断しないといけない気がします。
まとめ
「はじめ」にも書きましたが、私は実務で相続分の譲渡を扱ったことはありません。
ただ、事情により相続分の譲渡をせざるを得ないこともあり得るでしょう。
その場合、相続人間に争いが生じている場合は遺留分の問題と絡め問題になることは認識したほうがいいでしょう。
なお、相続法改正で遺留分も改正の対象となりますが、今回の判例については改正後も生きると思われます。
今回は
『相続実務 相続分の無償譲渡が贈与に当たるかどうか 遺留分の問題にも?』
に関する内容でした。
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参考書籍
補訂 実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル
北野俊光,雨宮則夫,秋武憲一,浅香紀久雄,松本光一郎 日本加除出版 2017-04-14
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