東京都江戸川区葛西駅前
会社設立などの企業法務・相続専門
司法書士・行政書士の桐ケ谷淳一です。
目次
はじめに
先日の朝日新聞の記事を読んで愕然としました。
『廃業予備軍「127万社」の衝撃 後継ぎ不足 企業3割』
中小零細企業で3万社が後継者がいないため廃業に追い込まれている事実。
これは日本経済にも深刻なダメージを与えます。
折角培われてきた技術やノウハウを失ってしまうからです。
事業承継の問題は深刻です。
そこで、平成30年4月1日の税制改正で、事業承継税制に関する税制措置がとられました。
今回の事業承継の税制改正の内容はどんなものでしょうか?
平成30年4月1日税制改正の事業承継に関することについて
事業承継のときに一番の問題なのは贈与税・相続税。
今までも、贈与税・相続税の納税を猶予される税制が取られていました。
今回、さらに納税猶予を拡充する事業承継税制改正が行われます。
今後5年以内に特例承継計画を提出し、10年以内に実際に承継を行う者を対象とし、抜本的に拡充されます。
主な内容は以下のとおりです。
- 対象株式数・猶予割合の拡大
- 雇用要件の弾力化
- 対象者の拡大
- 経営環境変化に応じた減免
- 相続時精算課税制度の適用範囲の拡大
順番に説明します。
対象株式数・猶予割合の拡大
従前は、先代経営者から贈与・相続により取得した非上場株式等のうち、議決権株式総数の3分の2に達する部分までの株式等が対象でした。
ただ、贈与・相続前から後継者が既に保有していた部分は対象外でした。
例えば、相続税の場合、猶予割合は80%であるため、実際に猶予される額は全体の約53%にとどまります。
改正後は、対象株式数の上限を撤廃し、議決権株式の全てが猶予対象です。
それに伴い、事業承継時の贈与税・相続税の現金負担がゼロとなります。
雇用要件の弾力化
従前は、事業承継後5年間平均で、雇用の8割を維持する必要がありました。
もし8割を維持できなかった場合、猶予された贈与税・相続税の全額を納付する必要がありました。
今回の改正で、雇用要件を実質的に撤廃となりました。
これにより、雇用維持要件を満たせなかった場合でも納税猶予を継続可能です。
ただし、雇用維持ができなかった理由が経営悪化または正当なものと認められない場合、認定支援機関の指導・助言を受ける必要があります。
対象者の拡大
現行制度では、税制の対象となるのは、一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与・相続される場合のみでした。
今回の改正では、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象になりました。
これにより、中小企業経営の実情に合わせた、多様な事業承継を支援できます。
経営環境変化に応じた減免
現行制度では、後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継した時の株価を元に贈与・相続税を納税する必要がありました。
そのため、過大な税負担が生じる可能性もありました。
改正後は、売却額や廃業時の評価額を元に納税額を再計算します。
そして、事業承継時の株価を元に計算された納税額の差額が減免されます。
経営環境の変化による将来の不安を軽減できることになります。
相続時精算課税制度の適用範囲の拡大
現行制度では、60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫への贈与が相続時精算課税制度の対象でした。
つまり原則として直系卑属の贈与のみが対象でした。
改正後は、現行の相続時精算課税制度に加えて、事業承継税制の適用を受ける場合には、60歳以上の贈与者から、20歳以上の後継者への贈与を相続時精算課税制度の対象となりました。
つまり贈与者の子や孫でない場合にも上記に当てはまる場合には適用可能です。
これにより、猶予取消し時に過大な税負担が生じないようになります。
まとめ
今回の事業承継税制は大きな改正となりました。
それだけ事業承継問題が深刻化している証だといえます。
会社設立段階から、次の事業を誰に継がせるのか、真剣に考えないといけないでしょう。
今回は
『事業承継税制の改正 次世代経営者の引継ぎを支援する税制措置の創設・拡充』
に関する内容でした。
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