認知症になる前にやるべきこと5つ——司法書士が現場で見てきたチェックリスト

はじめに

「親がまだ元気だから、大丈夫」

そう思っているうちに、手遅れになるケースを何度も見てきた。

認知症は突然やってくる。昨日まで普通に話していた親が、翌週には判断能力を失っていたというケースも、現場では珍しくない。

認知症になった後では、法律上できなくなる手続きがある。

この記事では、江戸川区船堀で相続登記を専門に年間60件以上対応している司法書士の桐ケ谷淳一が、現場で見てきたリアルをもとに「認知症になる前にやるべきこと5つ」を解説する。

チェックリストとして使ってほしい。

なぜ「認知症になる前」なのか

認知症と診断された後では、本人が法律行為を行う能力(法的な判断能力)が失われる場合がある。

具体的にはこんな手続きができなくなる。

  • 遺言書の作成
  • 任意後見契約の締結
  • 家族信託の契約
  • 生前贈与
  • 不動産の売却・管理

これらはすべて「本人の意思と判断能力」が必要だ。

認知症になってから「やっておけばよかった」と後悔しても、時間は戻らない。

チェックリスト① 財産の「見える化」をする

まず親の財産を把握することから始める。

把握すべき項目はこれだ。

不動産

固定資産税の納税通知書を確認する。毎年4〜6月頃に届く書類に、所有している不動産の一覧が記載されている。

預貯金

通帳を確認する。

ネット銀行がある場合は、IDとパスワードを家族が把握しているか確認する。

亡くなった後にネット銀行の存在を知らず、何年もお金が眠ったままになるケースがある。

有価証券

証券会社からの郵便物を確認する。

新NISAで投資を始めた親世代が増えており、証券口座の把握は重要だ。

生命保険

保険証券を確認する。

「どこの保険会社に、いくらの保険が入っているか」を把握していない家族が多い。

借金・ローン

住宅ローンの残債、保証人になっている債務がないかを確認する。

A4一枚の「財産リスト」を親と一緒に作るだけでいい。

退職金がある場合の注意点は「退職金2000万円は相続でいくら減る?司法書士が解説」で詳しく解説しています。

チェックリスト② 遺言書を作成する

遺言書は「争族対策」だけではない。

遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議をしなければならない。

一人でも反対すれば協議はまとまらない。

遺言書があれば、原則として遺言の内容通りに手続きを進められる。

相続人同士で話し合う必要がなくなるため、手続き期間が大幅に短縮される。

遺言書には3種類ある

自筆証書遺言は自分で書ける。

費用はほぼゼロだが、形式不備で無効になるリスクがある。

法務局の保管制度を使えばリスクは下がる。

公正証書遺言は公証役場で作成する。

費用は財産額によって異なるが数万円程度。

確実性が高く、家庭裁判所での検認手続きも不要だ。

もう一つは秘密証書遺言があるが、実務ではほとんど使われないため、省略する。

どちらが自分に合うかは、財産の内容と家族の状況による。

迷ったら司法書士に相談してほしい。

チェックリスト③ 任意後見契約を結ぶ

任意後見契約とは、将来認知症になった場合に備えて、財産管理や生活に関する手続きを任せる人(任意後見人)をあらかじめ決めておく制度だ。

認知症になってから裁判所に申し立てる「法定後見」と違い、任意後見は本人が元気なうちに「誰に・何を・どこまで」任せるかを自分で決められる。

任意後見契約のメリット

  • 信頼できる家族や専門家を後見人に指定できる
  • 任せる権限の範囲を自分で決められる
  • 認知症になった後も財産が守られる

注意点

任意後見契約は公正証書で作成する必要がある。また実際に効力が発生するのは、認知症になり家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点だ。

チェックリスト④ 家族信託を検討する

家族信託とは、財産の管理・運用・処分を信頼できる家族に任せる仕組みだ。

任意後見との最大の違いは、認知症になる前から財産管理を始められることだ。

例えばこういう使い方ができる。

父親が自分の不動産を長男に信託する。長男は父親のために不動産を管理・賃貸・売却できる。父親が認知症になっても、長男が引き続き財産を管理できる。

家族信託が特に有効なケース

  • 不動産を持っている場合
  • 認知症リスクが高い場合
  • 将来の財産承継先を明確にしたい場合

家族信託は契約書の作成が必要で、専門家への依頼が確実だ。費用は信託財産の規模によるが、数十万円が目安になる。

チェックリスト⑤ 相続登記の状況を確認する

2024年4月から相続登記が義務化された。

「祖父が亡くなったとき、名義変更していなかった」という不動産が実家にないか確認してほしい。

放置している間に相続人が増え、認知症になる人が出て、手続きが一気に複雑化するケースを現場でよく見る。

早く動くほど、手続きはシンプルで費用も安く済む。

相続登記義務化の次に何が問題になるかは「相続登記義務化の次に来る問題」で解説しています。

現場で見てきた「後悔」

こんなケースがあった。

母親が元気なうちに「遺言書を書いておきたい」と言っていた。

長男は「そのうちやろう」と思っていた。

半年後、母親が認知症と診断された。

遺言書は書けなくなった。任意後見契約も結べなくなった。

長男は成年後見制度の申し立てをするしかなかった。

毎月の後見人報酬、家庭裁判所への報告義務(年に1回)

——母親が望んでいたシンプルな手続きとは程遠い状況になった。

「もっと早く動いていれば」

長男はそう言っていた。

まとめ:今日のチェックリスト

チェック項目 優先度
① 財産の見える化 ★★★
② 遺言書の作成 ★★★
③ 任意後見契約 ★★☆
④ 家族信託の検討 ★★☆
⑤ 相続登記の確認 ★★★

難しく考えなくていい。

まず親に電話して「財産のこと、少し整理しておきたいんだけど」と一言言うだけでいい。

それが今日できる最初の一歩だ。

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司法書士・行政書士 桐ケ谷 淳一

鉄道(乗り鉄・撮り鉄両方)と麻婆豆腐・担々麺をこよなく愛する司法書士・行政書士です。
ひとり会社設立、副業・複業、小さな会社の企業法務の分野を得意としています。
1977年1月 東京生まれ東京育ち
2000年 日本大学法学部法律学科卒業
2004年 司法書士試験合格
2005年 行政書士試験合格
2007年 東京都江戸川区葛西駅前にて司法書士事務所・行政書士事務所を開業
2017年 平成27・28年施行改正会社法・商業登記規則、役員変更登記の注意点(株式会社レガシィから)のCD・DVDを出しました。