終着駅で降りる準備はできていますか——リバースモーゲージと相続の話

はじめに

「自宅はある。でも、日々の暮らしに回せる現金は心もとない」

高齢のご家族について、あるいはご自身について、そんな思いを抱いたことはないでしょうか。

日本の高齢者世帯は、住宅や土地という大きな資産を持ちながら、年金収入が限られるために貯蓄を取り崩して生活費に充てている、というのが平均的な姿です。

その「動かない資産」を、住み慣れた我が家に暮らしたまま現金に変えられる仕組みがリバースモーゲージです。

老後の資金づくりの選択肢として、近年あらためて注目が集まっています。

ただ、私は司法書士としてこの制度に関わる登記に立ち会うなかで、こう感じることがあります。

乗り込むときの景色ばかりが語られて、終着駅で降りるときの話が置き去りになっている、と。

リバースモーゲージは、契約者が亡くなったときにこそ本番を迎える制度です。

だからこそ今日は、この仕組みを一本の鉄道路線に見立てて、始発から終着駅までを時系列でたどってみたいと思います。

司法書士とFP、両方の目線から、乗る前に知っておいてほしいことをお話しします。

始発駅——リバースモーゲージとは何か

まずは、この路線がどんな乗り物なのかを確認しましょう。

リバースモーゲージとは、高齢者が自宅を担保に、そこに住み続けながら金融機関からお金を借りる仕組みです。

ローンの一種ですが、私たちがよく知る住宅ローンとは、返済の向きがちょうど「逆」になっています。

住宅ローンは、最初にまとまった額を借りて、毎月コツコツ元金と利息を返していく。

返済が進むほど借入残高は減っていき、いずれ完済して担保が外れます。

リバースモーゲージはその反対です。

生前の支払いは基本的に利息のみ(利息すら元金に組み入れて、存命中は一切支払いが発生しないタイプもあります)。

元金は契約者が亡くなったときに、担保となった自宅を売却して一括返済するのが基本の形です。

融資を受けるたびに借入残高が増えていく——この「逆の動き」こそが「リバース(逆)」と呼ばれる理由です。

受け取り方にもいくつか種類があります。

  • 一括型……まとまった額を一度に受け取る
  • 年金型……毎月一定額を、年金のように受け取る
  • 都度型……必要なときに必要な額だけ引き出す

いわば「第2の年金」。自宅という指定席に座ったまま、月々の生活費という切符を手にできる。

これがこの路線の一番の魅力です。

車窓の風景——なぜ今、注目されるのか(FPの視点)

FPの目線で見ると、この制度が語られる背景には、はっきりとした時代の流れがあります。

高齢者世帯の多くは、資産の大半が自宅という「不動産」に偏っています。

現金は限られ、年金の実質的な価値は物価上昇でじわじわ目減りしていく。

「いつまで生きるか分からない」という不安から、あるお金もなかなか使えない。

結果として、活かされないまま眠っている資産が積み上がっていきます。

リバースモーゲージは、この状況を解きほぐす一手になり得ます。

自宅を売って引っ越す必要はなく、賃貸に出して他人を住まわせる必要もない。

住み慣れた家に居ながらにして、その価値を少しずつ現金化できるのです。

もっとも、日本での利用は潜在的な対象世帯のごく一部にとどまっているのが現状です。

とはいえ、高齢化・人口減少・インフレの定着といった環境の変化を背景に、今後じわじわと利用が広がっていく可能性のある分野です。

「不動産の有効活用」というテーマが続くかぎり、この路線の乗客はこれから増えていくのだろうと思います。

ここまでが、明るい車窓の風景です。ここから先、司法書士として一番お伝えしたい区間に入ります。

終着駅——相続で問題になりやすいポイント(司法書士の視点)

リバースモーゲージは、契約者が亡くなった「その先」の設計まで含めて、はじめて完結する制度です。終着駅で戸惑わないために、乗る前に確認しておきたいポイントを整理します。

① リコース型か、ノンリコース型か

これは、この路線で最初に確認すべき最重要ポイントです。

自宅を売却しても借入元金に届かなかったとき、その差額を誰が負担するのか。ここで契約は二つに分かれます。

  • リコース型……売却額が元金に満たない場合、残った差額を相続人が返済する
  • ノンリコース型……売却して残債が出ても、相続人に返済義務はない

不動産価格が下がる局面では、この違いが相続人の運命を大きく左右します。

なお、住宅金融支援機構の「リ・バース60」では、利用者の約99%がノンリコース型を選んでいます(2021年度実績)。

相続人に負担を残したくないなら、ノンリコース型が基本の選択肢になります。

ただし、ノンリコース型は金利が高めに設定され、借りられる額も少なくなる傾向があります。安心には、相応のコストがあるということです。

② 配偶者はどうなるか——連帯債務型

契約者に配偶者がいる場合、契約が配偶者に引き継がれる「連帯債務型」を採用している金融機関が多くあります。

この場合、契約者が亡くなっても配偶者はそのまま自宅に住み続けられ、返済は配偶者も亡くなった後に自宅を売却して行うことになります。

「自分が先に逝ったら、残された妻は・夫はどうなるのか」。ここは契約内容をしっかり確認すべき区間です。

③ 相続人が取れる選択肢

契約者が亡くなると、相続人は大きく次の方向から選ぶことになります。

  • 単純承認……返済や売却を進めて、通常どおり相続する
  • 相続放棄……プラスもマイナスも、いっさい引き継がない
  • 限定承認……相続で得た財産の範囲でのみ債務を負う

どれが正解かは、「家を残したいか」だけでは決まりません。

残債を負担できるか」「他の相続人と足並みをそろえられるか」まで含めて考える必要があります。

とくに限定承認は、相続人全員の同意が必要で手続きも複雑なため、使いこなすのは簡単ではありません。

そして相続の実務では、相続開始直後の初動がものを言います。

契約内容を確認しないまま時間だけが過ぎると、選べたはずの選択肢が閉じてしまうこともあるのです。

「まだ納得できない」——その気持ちの正体

私が登記の現場で出会うのは、こんな場面です。

亡くなった親が生前にリバースモーゲージを利用していた。

相続人であるお子さんは、「実家は当然自分たちが引き継ぐもの」と思っていた。

ところが実際には、その家は売却されて借入の返済に充てられる前提で設計されていた——。

制度としては何もおかしくありません。契約どおりです。

それでも、「話に聞いていなかった」「あの家がなくなるのは、やはり寂しい」という感情は、簡単には割り切れないものです。

この気持ちのすれ違いこそが、リバースモーゲージと相続をめぐる、いちばんの難所だと感じています。

一方で、見方を変えれば救いになる面もあります。

資産が自宅くらいしかない場合、その一軒を相続人で公平に分けるのは、実はとても難しい。

「誰が住むのか」「代わりにいくら払うのか」で揉めやすいのです。

リバースモーゲージなら、亡くなったときに自宅が売却され現金に変わるため、かえって公平に分けやすく、争いになりにくいという側面もあります。

つまりこの制度は、使い方次第で「争いの火種」にも「争いを避ける知恵」にもなる。分かれ目は、たった一つです。

出発前に、家族と同じ時刻表を見ておく

リバースモーゲージで最大の備えは、難しい法律論ではありません。

契約する時点で、その仕組みを家族と共有しておくこと

「この家は、いずれ売却して返済に充てる約束になっている」。

この一言を生前に伝えておくだけで、終着駅での戸惑いは大きく減らせます。

相続人が「聞いていなかった」と立ち尽くす——その最悪の状況は、同じ時刻表をあらかじめ家族で見ておくことで避けられるのです。

まとめ——入口の査定と、出口の相続はセットで

リバースモーゲージは、不動産の有効活用として十分に検討に値する、有力な選択肢です。

住み慣れた我が家で暮らしながら、老後のキャッシュフローを改善できる。

その価値は確かなものです。

ただし、乗る前に必ず押さえておきたいことがあります。

  • 入口の査定……いくら借りられるか、金利は、リコースかノンリコースか
  • 出口の相続……亡くなった後、家はどうなり、誰が何を引き継ぐのか

この二つは必ずセットで理解しておく必要があります。

片方だけを見て乗車すると、終着駅で家族が戸惑うことになりかねません。

始発駅の景色だけでなく、終着駅で降りるときのことまで見通しておく。

それがこの路線を上手に使いこなす、いちばんのコツだと思います。

ご自身の、あるいはご家族のリバースモーゲージについて、「入口」と「出口」を一度整理しておきたいときは、司法書士・FPとしてお手伝いできることがあります。

ご相談・お見積りはお気軽にどうぞ。

相続の「その先」を、もう少し詳しく

このブログでは制度の全体像をお話ししましたが、実際のご家庭では「うちの場合はどうなるのか」という個別の悩みが出てきます。

noteでは、親御さんの「もしも」の前に知っておきたい手続きを、鉄道になぞらえながら一本ずつ掘り下げて連載しています。相続放棄や限定承認の判断、残されたご家族が最初にすべきこと——ブログでは書ききれない実務の細部まで、順を追って整理しています。

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この記事を書いた人

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司法書士・行政書士 桐ケ谷 淳一

鉄道(乗り鉄・撮り鉄両方)と麻婆豆腐・担々麺をこよなく愛する司法書士・行政書士です。
ひとり会社設立、副業・複業、小さな会社の企業法務の分野を得意としています。
1977年1月 東京生まれ東京育ち
2000年 日本大学法学部法律学科卒業
2004年 司法書士試験合格
2005年 行政書士試験合格
2007年 東京都江戸川区葛西駅前にて司法書士事務所・行政書士事務所を開業
2017年 平成27・28年施行改正会社法・商業登記規則、役員変更登記の注意点(株式会社レガシィから)のCD・DVDを出しました。