個人事業主が法人化を考えたときに“最初に知っておきたいこと”― 株式会社と合同会社の選び方・落とし穴をやさしく解説

東京都江戸川区船堀、司法書士・行政書士きりがや事務所、桐ケ谷淳一(@kirijunshoshi)です。

はじめに

個人事業主として活動していると、
「そろそろ法人化したほうが良いのだろうか?」
そんな悩みが一度は頭をよぎります。

売上が増えた、仕事の幅が広がった、取引先が増えて名刺交換が増えてきた――。

どんなステージにいても、法人化を考えるタイミングは誰にでも訪れます。

しかし、実際に法人化を検討すると、専門用語がいきなり増えます。

株式会社?合同会社?定款?本店所在地?役員?

初めての方にとって「何をどう決めるのか」が想像できないのは当然です。

そこで今回は、司法書士として多くの法人設立をサポートしてきた視点から、

「最初にこれだけ押さえておけば大丈夫」というポイントをまとめました。


これから法人化を考える方にとって、安心して一歩を踏み出せる内容です。

法人化すると何が変わるのか?

まず最初に知ってほしいのは、法人化とは「会社という別人格をつくること」だということです。

個人事業主の場合、仕事上の契約の主体はすべて「あなた個人」です。

しかし法人化すると、契約の主体は「会社」になります。

この変化によって次のようなメリットがあります。

● 社会的信用が上がる

法人は対外的な信用が高いので、

  • 新規取引先との契約
  • 銀行融資
  • 助成金・補助金

で有利になるケースが多いです。

● お金の管理が明確になる

個人の財布と事業の財布が分かれるので、会計管理が明確になり、節税につながる場面も増えます。

● 事業の選択肢が増える

社員を雇う、法人名義で契約する、支店を作る、など、事業の幅が広がります。

一方で、注意すべきポイントも増えます。

● 事務負担が増える

社会保険加入や毎年の決算など、法人特有の事務が増えます。

● 登記義務が発生する

会社には「登記義務」があります。

役員変更、本店移転、商号変更など、変更があるたびに登記が必要です。

これを怠ると過料(罰金)の対象になります。

会社設立して役員変更登記を失念して過料になっている会社が意外と多いです。

なので、しっかりと任期管理をする必要があります。

つまり法人化は、メリットと手間がセットになっていると思ってください。

だからこそ「目的」から逆算することが大切です。

株式会社と合同会社、どちらがいい?

法人化を考えると、最初の大きな壁が「株式会社にするか、合同会社にするか」です。

両者の違いをシンプルに整理してみましょう。

◆ 株式会社の特徴

メリット

  • 社会的信用が圧倒的に高い
  • 将来的に事業を大きくしやすい
  • 役員を増やしたり株式発行したり、成長戦略が描きやすい

 

デメリット

  • 設立費用が高め
  • 定款認証が必要
  • ・役員任期があり、変更登記が定期的に必要

向いている人

  • 信用力を上げたい
  • 採用や融資を強化したい
  • 事業を拡大する予定がある

◆ 合同会社(LLC)の特徴

メリット

  • 設立費用が安い
  • 役員の任期なし
  • 経営の自由度が高い
  • 決算公告がいらない

デメリット

  • 株式会社に比べると信用度は下がる
  • 人を雇う・融資を受ける場合に不利になることがある
  • 将来的に株式会社へ“組織変更”したくなるケースが多い
  • 認知度が株式会社と比べて低い

向いている人

  • 一人社長で小さく・安く始めたい
  • 初期費用を抑えたい

◆ 司法書士としてのリアルなアドバイス

どちらが正解という話ではありません。

ただし、実務で多く見ていると「5年後どうしたいか」で選ぶのがもっとも失敗が少ないというのが正直な印象です。

・5年後も一人で運営 → 合同会社で十分
・5年後に人を雇いたい・会社を伸ばしたい → 株式会社が無難

この“未来の姿”から逆算すると判断がしやすくなります。

法人化でよくある「落とし穴」

法人化の相談で最も多いのが、この3つです。

▼ 落とし穴1:定款の中身を理解しない

定款とは会社のルールブック。
後で困るポイントは

  • 決算月
  • 役員任期
  • 事業目的
  • 会社の意思決定

特に事業目的は、後で追加したくなるケースが非常に多く、追加登記に費用が発生します。

最初から“広めに”作るのが鉄則です。

とはいうものの、多く目的を作りすぎても実際に事業をする必要がないのであれば、目的数を抑えることも大事です。

▼ 落とし穴2:代表者住所の公開

会社を設立すると、代表者住所は登記事項として公開されます。

自宅住所の場合、慎重な判断が必要です。

近年、法改正により「代表住所の非公開制度」も整いつつあり、特に女性起業家の場合、このポイントは非常に重要です。

※司法書士に相談すると、実務上の運用まで含めて最適解を提示できます。

▼ 落とし穴3:設立後の登記手続きを知らない

会社を作ったら終わりではありません。

会社は「変更があれば必ず登記」というルールがあります。

「知らないうちに過料を受けた」、「融資の直前に登記漏れが見つかれて焦った」、といった相談は実際によくあります。

“目的”から逆算して法人化するのが正解

法人化の正しい順番は、

  1.  目的を決める
  2. 必要な会社形態を決める
  3. 設立時期を決める
  4. 定款・構成決め
  5.  登記申請

この5ステップです。

「節税したい」「信用が必要」「契約の問題を解決したい」

目的は人それぞれ異なります。

  • 司法書士として強く感じるのは、

“目的が曖昧なまま法人化した人ほど、後から手続きで困る”

ということです。

だからこそ、最初の段階で

  • どんな働き方をしたいのか
  • どんな取引が多いのか
  • 将来の事業イメージ

を丁寧に整理することがとても大切です。

まとめ:法人化はゴールではなく「スタートライン」

法人化をすることで、事業の選択肢は確実に広がります。

同時に、ルールも増えます。

会社を作るということは、「新しい責任」と「新しい未来」を引き受けることでもあります。

そのため、“自分らしく働く未来のために法人化する”という視点を大切にしてください。

司法書士として、法人化は人生の大きな分岐点だといつも感じます。

この記事が、あなたの次の一歩の助けになれば幸いです。

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この記事を書いた人

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司法書士・行政書士 桐ケ谷 淳一

鉄道(乗り鉄・撮り鉄両方)と麻婆豆腐・担々麺をこよなく愛する司法書士・行政書士です。
ひとり会社設立、副業・複業、小さな会社の企業法務の分野を得意としています。
1977年1月 東京生まれ東京育ち
2000年 日本大学法学部法律学科卒業
2004年 司法書士試験合格
2005年 行政書士試験合格
2007年 東京都江戸川区葛西駅前にて司法書士事務所・行政書士事務所を開業
2017年 平成27・28年施行改正会社法・商業登記規則、役員変更登記の注意点(株式会社レガシィから)のCD・DVDを出しました。