「まだ何も手続きしていないので、相続は始まっていないですよね?」
相続のご相談で、いちばん多く伺う言葉です。でも、相続は手続きを始めた日に始まるものではありません。亡くなったその日に、法律上はもう始まっています。
この記事は、江戸川区船堀の司法書士・行政書士である私が、XとSubstackで30日間毎日書いてきた連載「相続の基礎のキソ」を、1ページにまとめ直したものです。相続のことをまったく知らない方に向けて、「家族が亡くなったら、何が起きて、誰が相続人になり、どう分けて、何を準備しておけばいいのか」を、順番に書いています。
気になるところから読んでいただいて構いません。
※この記事は2026年10月時点の法律と制度にもとづく一般的な内容です。個別の事情によって結論が変わることがありますので、実際の手続きでは専門家にご確認ください。
目次
第1週 相続は、いつ始まり、何が起きるのか
1日目 相続は、亡くなった日に始まる
相続は、申請して始まるものではありません。亡くなったその日に、預金も、実家も、借金も、法律上は相続人全員のものになります。名義が書き換わっていないだけで、権利はもう動いています。そして、何もしていない間も、期限だけは進んでいきます。
2日目 「長男に全部」と言い残しても、それだけでは動かない
口で言い残したことや、エンディングノートに書いたことには、法的な効力がありません。遺言書がなければ、相続人全員で分け方を話し合い、全員が署名して実印を押す必要があります。一人でも欠けると、実家の名義変更も預金の解約も進みません。
3日目 遺産に入るもの、入らないもの
預貯金、不動産、株式、車、そして借金は遺産に入ります。一方、受取人が指定された生命保険金、遺族年金、お墓や仏壇は、遺産分割の対象には入りません。ここを取り違えて話し合いを進めると、あとでやり直しになります。
4日目 借金も相続する。判断の期限は3か月
プラスの財産だけを選んで受け取ることはできません。借金を引き継がないには、家庭裁判所で相続放棄の手続きをします。期限は「自分が相続人になったと知った日」から3か月。その間に亡くなった方の預金を使ったり、家財を売ったりすると、放棄できなくなることがあります。
5日目 期限のある手続きは、実は一部だけ
- 7日以内 死亡届
- 10日〜14日以内 年金の停止、健康保険の資格喪失、世帯主の変更など
- 3か月以内 相続放棄をするかどうか
- 4か月以内 亡くなった方の確定申告(準確定申告)
- 10か月以内 相続税の申告と納付
- 3年以内 不動産の名義変更(相続登記)
多くのご家庭で本当に急ぐのは、役所での2週間の手続きと、借金の心当たりがある場合の3か月です。
6日目 放置していい手続き、放置してはいけない手続き
公共料金やカードの解約は、多少遅れても大きな問題にはなりません。放置してはいけないのは、借金がある場合の3か月の判断、相続登記、そして遺産分割の話し合いです。話し合いを放っておくと、その間に相続人が亡くなり、話し合う人数がどんどん増えていきます。
7日目 いちばん多い後悔は「聞いておけばよかった」
手続きが終わったとき、ご遺族がいちばん口にされるのは「もっと早く手続きすればよかった」ではなく、「もっと話を聞いておけばよかった」です。通帳の場所、保険、借金の有無。生前なら5分で済む話が、亡くなった後は半年がかりの調査になります。
第2週 誰が相続人になるのか
8日目 配偶者は必ず相続人。でも、全部はもらえない
配偶者は、どんな場合でも相続人になります。ただし、子どもがいれば子どもと、子どもがいなければ親やきょうだいと一緒に相続人になります。夫婦で築いた預金でも、名義が夫なら夫の遺産です。離婚した元の配偶者と、婚姻届を出していない事実婚のパートナーは、相続人ではありません。
9日目 子は第1順位。前の結婚の子も、養子も同じ
長男も次女も、結婚して姓が変わった子も、立場は同じです。前の結婚でもうけた子は、何十年会っていなくても相続人。養子も実の子と同じです。一方、再婚相手の連れ子は、養子縁組をしていなければ相続人になりません。
10日目 子どもがいなければ、親へ。親もいなければ、きょうだいへ
子どものいない夫婦は、配偶者がすべて相続するわけではありません。亡くなった方の親、親がいなければきょうだいも相続人になります。ただ、きょうだいには遺留分(最低限の取り分)がないため、遺言書を書けば配偶者に全部を残せます。遺言書は夫婦それぞれ、二通書いておくことが大切です。
11日目 会ったこともない甥・姪が相続人になる
本来相続人になるはずの人が先に亡くなっていると、その子が代わりに相続人になります(代襲相続)。子の系統は孫、ひ孫へと続き、きょうだいの系統は甥・姪で止まります。誰と誰がどちらを先に亡くなったかで、相続人が変わることもあります。
12日目 相続人は、出生からの戸籍でしか証明できない
本籍を移すと、新しい戸籍には前の結婚の子などが載らないことがあります。だから、生まれてから亡くなるまでの戸籍をすべてたどります。2024年3月からは、最寄りの役所で親や子の戸籍をまとめて請求できるようになりました。集めた戸籍は、法務局で「法定相続情報一覧図」にしておくと、1枚で各窓口の手続きに使えます(交付は無料)。
13日目 縁は切れない。戸籍にない縁は届かない
「勘当した」「分籍した」では、親子の関係はなくなりません。一方、30年連れ添った事実婚のパートナーや、義父を介護してきた長男の妻は相続人ではありません。長男の妻は、2019年から「特別寄与料」を請求できるようになりましたが、期限は原則6か月と短いです。
14日目 法定相続分は、決まりではなく話し合いの物差し
相続人全員が納得すれば、法定相続分と違う分け方をしても構いません。ただし借金だけは別で、家族で「長男が全部引き受ける」と決めても、お金を貸した側は法定相続分で各相続人に請求できます。生前の援助や介護の貢献による調整は、2023年から、亡くなって10年を過ぎると原則として主張できなくなりました。
第3週 どう分けるのか
15日目 遺産分割に、多数決はない
9人が賛成でも、1人が反対すれば何も決まりません。そして、その1人が反対する理由は、お金より「自分だけ何も知らされていなかった」ことのほうが多いです。分け方の案を出す前に、財産の一覧を相続人全員に、同じタイミングで見せてください。
16日目 口座は、死亡届では止まらない
口座が凍結されるのは、銀行が亡くなったことを知ったときです。凍結されたあとでも、「預貯金の仮払い制度」を使えば、相続人が一人で一定額まで引き出せます(口座の残高×1/3×法定相続分、1つの銀行につき150万円まで)。
17日目 「とりあえず共有」は、いちばん後で困る
実家をきょうだいの共有にすると、売るにも建て替えるにも全員の同意が要ります。共有者の一人が自分の持分だけを業者に売ってしまうこともあります。次の相続で共有者がさらに増えていくので、できるだけ一人に集める分け方を考えてください。
18日目 相続登記は義務になった
2024年4月から、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の相続登記が義務になりました。それより前の相続も対象で、期限は2027年3月31日です。正当な理由なく放置すると、10万円以下の過料の対象になり得ます。まずは固定資産税の通知書で、名義人の欄を確かめてみてください。
19日目 遺言書が1通あれば、話し合いが要らなくなる
遺言書で「自宅は長男に相続させる」とあれば、長男が一人で名義変更できます。ただし、自分で書く遺言書は、日付が「吉日」だったり、ハンコがなかったりすると無効になります。法務局に預ける方法(手数料3,900円)や、公証役場で作る公正証書遺言なら、形式の心配が少なくなります。
20日目 封のある遺言書は、その場で開けない
自分で書かれた遺言書は、家庭裁判所の「検認」という手続きで開けます。うっかり開けても遺言書は無効になりませんが、過料の対象にはなり得ます。いちばん取り返しがつかないのは、隠したり破ったりすることで、その相続人は相続人の資格を失います。
21日目 遺言書でも、ゼロにはできない「遺留分」
配偶者、子、親には、遺言書があっても最低限の取り分(遺留分)があります。多くは法定相続分の半分です。ただし、自分で請求しなければ戻ってこず、期限は知ってから1年です。2019年からはお金で精算する仕組みになり、家を共有にする必要はなくなりました。
最終週 つまずきやすいところと、元気なうちにできること
22日目 相続放棄しても、借金は消えない
子どもが全員相続放棄をすると、借金は次の順位、つまり亡くなった方の親やきょうだい(子どもから見ればおじ・おば)に回ります。知らせる義務はありませんが、督促状より先に、ひと言知らせてください。その一本の電話で、親戚づきあいはまったく変わります。
23日目 生命保険金は、受取人で行き先が決まる
受取人が指定された保険金は、その人だけのお金で、遺産分割の対象外です。相続放棄をしても受け取れます。ただし、保険料を払った人と受取人の組み合わせによって、相続税・所得税・贈与税のどれがかかるかが変わります。受取人が先に亡くなっていないかも、確かめておいてください。
24日目 子ども名義の通帳は、親のものかもしれない
親がお金を出し、通帳と印鑑を親が持ち、子どもがその口座を知らない場合、名義が子どもでも親の財産(名義預金)と見られます。本当に渡すなら、贈与契約書を作り、通帳は子ども自身が持つこと。亡くなる前の贈与を相続税の計算に足し戻す期間は、2024年から段階的に3年から7年へ延びています。
25日目 相続税がかかるのは、10人に1人
相続税は、遺産の合計が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えた場合にかかります。全国では亡くなった方の約10人に1人ですが、東京国税局の管内では約6人に1人です。自宅の土地の特例や配偶者の軽減で税金がゼロになる場合でも、申告が必要なことがあります。
26日目 認知症になると、相続の準備は止まる
判断する力がなくなると、遺言書も贈与も自宅の売却もできなくなります。父が亡くなったときに母が認知症だと、成年後見人が必要になり、「全部母に」という分け方も原則としてできません。元気なうちに、遺言書、任意後見、家族信託といった備えを考えてください。
27日目 おひとりさまの相続
配偶者も子もいない方でも、きょうだいや甥・姪がいれば、その人たちが相続人です。きょうだいや甥・姪には遺留分がないので、遺言書を書けば、お世話になった人や団体に財産を届けられます。葬儀や部屋の片付けなど亡くなった後の手続きは、遺言書とは別の「死後事務委任契約」で頼んでおきます。
28日目 相談先は「もめているか」「相続税がかかりそうか」で決める
- 家族の間でもめている → 弁護士
- 相続税がかかりそう → 税理士
- 実家の名義変更、相続放棄や検認の書類 → 司法書士
- 遺産分割協議書、車の名義変更 → 行政書士
- 遺族年金 → 社会保険労務士、年金事務所
最初の相談先が違っていても、きちんとした専門家なら適切な専門家につないでくれます。迷って何もしないのが、いちばんもったいないことです。
29日目 親との話は「遺言書いて」ではなく「この家、どうしたい?」から
「遺言書いておいてよ」は、親には「死ぬのを待っているのか」と聞こえてしまうことがあります。自分の話から入る、ニュースなど外のきっかけを使う、「困らないように教えて」と頼る形にする。そして、財産より先に「どうしたいか」を聞いてください。聞いた内容は、きょうだい全員に共有します。
30日目 相続の準備は、元気なうちにしかできない
30日間で書いてきたことを一言にすると、これです。遺言書も、任意後見も、受取人の見直しも、親との会話も、判断する力があるうちにしかできません。手続きを早く終わらせるためではなく、故人を思う時間を家族に返すために、元気なうちに準備しておいてください。
もっと詳しく知りたい方へ
30日分の内容は、noteに4部に分けて、詳しくまとめています。遺産分割協議書や遺言書の文例、相続税の概算ワークシート、チェックリストなども載せています。
- 第1部 家族が亡くなったら、何が起きるのか(期限と手続きの全体地図)
- 第2部 うちの相続人は誰?(相続人の決まり方)
- 第3部 相続の「分け方」で失敗しないために(協議書・遺言書の文例つき)
- 第4部 元気なうちにしかできない相続の準備(完結編)
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相続のご相談は、江戸川区船堀のきりがや事務所へ
相続は、財産を分けることでもありますが、私は「想いをつなぐこと」だと思ってこの仕事をしています。相続登記、相続放棄、遺言書の作成、法定相続情報一覧図の作成など、相続の手続きでお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
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