目次
はじめに
「父が亡くなったとき、実家の名義変更(相続登記)はしていなかった。母が住み続けていたので、特に困らなかったから」
「母も先日亡くなり、今度こそ兄弟で名義を整理しようと思っている」
このような状況で司法書士にご相談いただくケースは、実はとても多くあります。
多くの方は「父の相続と母の相続、まとめて済ませればいいだろう」と考えて手続きを始めます。
ところが、戸籍を集めていく中で、思いもよらない事実が判明することがあります。
父の相続の話し合い(遺産分割協議)に、母の再婚歴を通じて、これまで存在を知らなかった相続人が加わってくるというケースです。
この記事では、司法書士として相続登記を60件以上お手伝いしてきた実務経験と、FP3級で学ぶ相続の基礎知識をもとに、このパターンで何が起きるのか、なぜそうなるのか、そしてどう備えればよいのかを解説します。
なぜ「父の相続」が、母の死後に問題になるのか
まず前提を整理します。
父が亡くなった時点で相続登記をしていなくても、父の相続そのものは、父が亡くなった時点で法律上すでに発生しています。
名義変更をしていないのは、相続人全員で「誰が何を相続するか」を決める遺産分割協議を、まだ済ませていないだけです。
実家は、相続人全員の共有のような状態のまま残っています。
このとき、父の法定相続人は、配偶者である母と、子どもたちでした。
本来、遺産分割協議は「母+子どもたち」で行うべきものだったのです。
それを行わないまま母が亡くなると、母が持っていた「父の相続人としての立場」は、そのまま母の相続人に引き継がれます。
これを「数次相続(すうじそうぞく)」といいます。
相続の手続きが完了する前に、次の相続が重なって発生する状態です。
母の相続人が、あなたとご兄弟だけであれば、話はシンプルです。
父の相続についても母の相続についても、結局は同じ顔ぶれで話し合うことになります。
問題は、母の相続人が、あなたとご兄弟だけとは限らないケースです。
母の出生から死亡までの戸籍を、新たに集める必要がある
相続登記の手続きでは、亡くなった方の出生から死亡までの、すべての戸籍謄本が必要です。
これは父についても、母についても同様です。
つまり今回のケースでは、父の戸籍一式に加えて、母の出生から死亡までの戸籍一式も新たに収集することになります。
多くの方は、この作業で初めて、母の若い頃の戸籍を目にします。
実の子どもであっても、親の戸籍を通しで確認する機会は、人生の中でそう多くありません。
戸籍には、本籍地の変遷、婚姻・離婚の記録が、事実としてそのまま記載されています。
ここで、次の2つのパターンのいずれか(あるいは両方)が判明することがあります。
パターン①:母に、父と結婚する前の婚姻歴があった場合(異父きょうだいの存在)
母が父と結婚する前に、別の方と結婚していたことが戸籍から判明し、そこにお子さんがいた場合――あなたやご兄弟から見て、父を同じくしない、母だけを同じくする兄弟姉妹(いわゆる異父きょうだい)の存在が明らかになります。
この方も、母の実子として、母の法定相続人です。
母と何十年も会っていなくても、家族の誰も存在を知らなくても、法律上の親子関係は離婚によっても年月によっても消えません。
そしてここが重要な点です。母の相続人が増えるということは、母から引き継いだ「父の相続人としての立場」も、その方に及びます。
つまり、次のような構図が生まれます。
- 父の遺産分割協議に、面識のない異父きょうだいが、母の相続分を引き継ぐ形で加わることになる
- 母自身の遺産分割協議にも、当然その方が加わる
会ったこともない相手に、まず「あなたは相続人です」という事実を伝えるところから始まります。
実印と印鑑証明書の提供をお願いし、場合によっては直接事情を説明する必要も出てきます。
こうしたケースは、円満に進むこともあれば、感情的な行き違いから長期化することもあり、進み方は事前には読めません。
パターン②:母が、父の死後に再婚していた場合
もう一つ、見落とされがちなパターンがあります。母が、父の死後に別の方と再婚していた場合です。
この場合、母の法定相続人には、あなたたち子どもに加えて、母の再婚相手(配偶者)も含まれます。配偶者は常に法定相続人になるためです。
つまり、母自身の相続には、あなたたちきょうだいだけでなく、法律上は他人であった「母の再婚相手」が加わります。
さらに、この再婚相手には連れ子がいる可能性もあります。
母がその連れ子と養子縁組をしていれば、その方も母の法定相続人に含まれます(養子縁組をしていなければ、法定相続人にはなりません)。
このパターンでは、父の遺産分割協議には直接関わりませんが(母の再婚相手は父の相続人ではないため)、母自身の遺産、および母の相続を通じて共有状態になっている父の遺産の一部について、母の再婚相手との話し合いが必要になる場面が生じます。
実家が父の名義のまま母の再婚相手と共有状態になっている、というケースも起こり得ます。
2つのパターンに共通すること
パターン①(母の前婚の子)も、パターン②(母の再婚相手)も、根っこにある問題は同じです。
名義変更(相続登記)を先送りにしている間に、関係する相続人の顔ぶれが、家族の想定を超えて広がっていくということです。
放置する期間が長くなるほど、関係者はさらに増える可能性があります。
相続人自身が高齢で亡くなれば、その方の相続人がさらに加わる、という具合です(数次相続が二重、三重に重なるケースです)。
こうならないために、今できること
① 名義がどうなっているか、まず確認する
先に亡くなった親の名義のまま実家が残っていないか、固定資産税の納税通知書で確認してください。
名義が変わっていなければ、その相続はまだ「終わっていない」状態です。
② 存命の親に、それとなく確認しておく
もし親のどちらかがご健在なら、今のうちに確認できることがあります。
「再婚だっけ?」と直接聞きにくい場合は、以前のお相手との間にお子さんがいないか、亡くなった後に再婚する予定や意向がないか、機会を見て確認しておくと安心です。
これは、その親が亡くなってからでは、戸籍でしか確認できなくなります。
③ すでに両親とも亡くなっていて、名義が残っている場合
早めに戸籍の収集を始めることをおすすめします。
前婚の子や再婚相手の有無は、実際に戸籍を集めてみるまで確定しません。もしいた場合、連絡や協議には想像以上に時間がかかります。
なお、相続登記は2024年4月から義務化されており、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記をしないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります。
2024年より前に発生した相続についても、経過的な猶予期間はあるものの、義務化の対象になっている点にご注意ください。
まとめ
- 親のどちらかが先に亡くなり、名義変更(相続登記)をしないまま残された親も亡くなると、「数次相続」という状態になり、手続きが複雑化しやすい
- 残された親の出生から死亡までの戸籍を新たに集める必要があり、そこから前婚の子(異父きょうだい)や死後の再婚相手の存在が判明することがある
- どちらのパターンも、面識のない相手との遺産分割協議が必要になり、時間と労力がかかる
- 早めに名義を確認し、必要であれば早期に戸籍収集・専門家への相談を始めることが、負担を最小限にする鍵になる
数次相続や、想定外の相続人が関わるケースは、一般的な相続登記よりも戸籍の収集範囲が広がり、協議の相手も増える傾向にあります。
「うちも当てはまるかもしれない」と感じた方は、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。
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なお、母の再婚歴が絡む数次相続について、より実務的な事例をもとに詳しく解説した記事を、noteでも公開しています。あわせてご覧ください。
司法書士・行政書士きりがや事務所では、数次相続や複雑な相続人関係のご相談も承っております。
「名義が誰のままか分からない」「親に再婚歴があるかもしれない」という段階からでも大丈夫です。まずは戸籍の確認から、一緒に整理いたします。
